アンチエイジングニュース

“口のアンチエイジング”を歯科医師の権威に伺う~前編~

昨年アンチエイジングネットワークで行った意識調査で、「ご自身のアンチエイジグにする悩みはなんですか?」という質問に対する、女性の回答の1位は「顔」であった。顔の印象を左右する大きな要素は、肌だけはない。顔の中心にある口に若々しさを保つことが重要なカギである。見た目のみならず、全身のアンチエイジングにも「口腔という器官の老化現状」は深く関わっているのだ。そこで今回、鶴見大学歯学部教授・病院長、ドライマウス研究会代表・抗加齢歯医学研究会代表である斎藤一郎先生“口のアンチエイジング”についてお話を伺がった。斎藤先生は歯科医師であり、また研究者という立場から「アンチエイジング医療」に深く携わっておられ、再来年の日本抗加齢医学会で会長も務められる予定である。
最近度々耳にする「ドライマウス」を中心に、「口の老化を防ぐために大切なこと」、更には「アンチエイジング最新研究」について興味深いお話をお伺いできたと感じている。

―― 愛情とアンチエイジング ――

Q:早速ですが、斎藤先生の著書「口からはじめる~不老の科学~」に乳幼児期に親の愛情を受けて育ったラットと、あまり愛情を受けなかったラットを比較する面白い論文が紹介されていましたが、ラットにどうのような影響を与えたのでしょうか?

斎藤先生:哺乳類は、子供が生まれると犬でも猫でもネズミでも、まず「舐める」。「舐める」という行為で、自分が愛されていると思うのです。愛されて育った子供は、ストレスに対して耐えられる力を持つ。言い方を変えると、あまり愛されないで育った人は、ストレスに対して弱いとも言えます。ネズミだって猫だって犬だって、生存競争があり、多様な環境の中で生きていかなければいけない。その為にも愛情深く育てるのはとても大事なことで、その基本は親が子供をグル―ミングしたり舐めたりする行為。人間に当てはめてみれば、例えば「キスをする」とか「愛撫をする」という行為は、本来生物学的にはとても重要。ひきこもりが増加し、人とのコンタクトを嫌いメールのやり取りだけになりがちな今だからこそ、人とのコミュニケーションやコンタクトが、人間の基本的な行為として不可欠じゃないかということを、メッセージとして伝えるために紹介しました。

Q:舐めるという行為で、唾液もなんらかの役割を果たしているのですか?

斎藤先生先生:よく泌尿器科の先生達と話す唾液の面白い話は、キスをすると唾液中にあるテストステロンの刺激が、キスを介して相手に伝わる。それで、相手の感情が高まるんじゃないかと、あくまで想像です!でも意味はあると考えられます。我々の体の中には、50数種類のホルモンがあって、そのホルモンは唾液中に反映されています。そのホルモンが、例えば「舐める」ことで相手にも伝わり、安らかな気持ちにさせるのかもしれないし、性的に興奮させるのかもしれない。要するに、唾液はただの1日1.5リットルでる水分ではない。その唾液には、我々のライフスタイルや行動を決定する重要な役割があります

Q:そう考えると今のドライな生活パターンの若者は長く生きられないのでは?ダイレクトコミュニケーションのない社会が加速すると、寿命は縮むのでしょうか?

斎藤先生:そうでしょう。だから、草食系男子とか異性をデジタルでしか見られないということが、あきらかに少子化傾向になっている。少し生物学的に男性・女性で考えてみると、自身の性的な機能を120%活性化でき発揮できるような状況をつくるということが健全です。

―― アンチエイジングとは? ――

Q:アンチエイジングとは健全に戻すための医学なのですか?

斎藤先生:もちろん。いつまでも健全な状態で、なるべく長く生きたいという願いがある。男は男らしくというのは非常に大雑把な言い方ですが、昔は獲物を狩り、それを持ってきて家族に分配するように男性の体はできている。だから筋力だって女性に比べて多いし、その分、テストステロンだってある。脂肪の付き方も男性と女性で違う。男は内臓脂肪がついて女は皮下脂肪なのは、内臓脂肪は戦いに負けないための脂肪のつき方だからです。それは男女同権だと言われていても、男はそういう意味で戦わなきゃならない使命。元々生物学的にもっているのであれば、その機能を100%発揮するのが望ましい。だから、草食系で草は男の機能を果たしているかと言うと、極めて懐疑的。

Q:草食系男子のテストステロンを測るとどうなのでしょうか?

斎藤先生:テストステロンは低いかもしれないですが、草食系男子を集めた調査なんてできませんから(笑)

―― ドライマウスとは? ――

Q:そろそろ斎藤先生のご専門のドライマウス(口腔乾燥症)についてお伺します。口が渇くという症状は加齢によって生じるものなのでしょうか?

斎藤先生:健康な高齢者では起こらない。けれども加齢に伴って生じる様々な病態を介して、口が渇く。例えば、高血圧で降圧剤を飲んでいると、降圧剤の副作用で口が渇く。薬の副作用はひとつの原因になるし、メンタルストレスも、交換神経と副交感神経の二重支配を唾液線は受けているので、緊張すると瞬時に唾液は止まる。だから加齢にともなって、40代50代になってメンタルストレスが増えてくると、唾液の量は落ちる訳です。あなただって緊張すると口が乾かない?

Q:喉が渇く感じはしますが、口が渇いているのですか?

斎藤先生:披露宴でスピーチしなさいと言われると、滑舌が悪くなって舌を噛む人や、ロレツが回らなくなる人がいる。そういう精神的なものが関与している。外分泌腺というのは性ホルモンによって調節されているので、性ホルモンが著しく減る更年期障害という場合には、ドライアイ、ドライマウス、ドライスキン、ドライバジャイナになる。つまり、眼が渇いて口が渇いて皮膚が乾いて膣が渇くという、乾燥症候群になりやすい。そういう方に、ホルモン補充療法をしたら乾燥感がなくなったという報告もある。

Q:ドライマウスとは具体的にどの位、渇いている状態なのですか?

斎藤先生:軽度から重度の方までいるけれど、重度になってくると、乾いたクッキーとかお煎餅が食べられない。口がパサパサになっちゃうから。お水がないとお食事ができないとか、カラオケが歌えない。風邪を引いたりアレルギーで抗ヒスタミン剤を飲むと口が渇かない?それが、毎日続くイメージ。

Q:「口が渇く」症状を訴えて来院されるのは、年代的にはどの位の方なのですか?

斎藤先生:ここの大学病院のドライマウス外来には5年間で3600名、初診の患者さんがいらしたのですが、大半が中高年の女性。

Q:ドライマウスの原因は、人それぞれということでしょうか?

斎藤先生:ホルモン量が減ってきたり、ストレスだったり、他の疾患によって唾液が減ってくる。更年期障害も一つでもある。だからドライマウスの原因はひとつではない。非常に複合的。その中に、シェ―グレン症候群という難病も入っている。そういう病気が隠されているので、それを判別しなきゃならない。そのために、当院のドライマウス外来では、まず唾液の分泌量や口腔内のカンジタ菌数をチェックします。そこから、今後どのように対応していけばいいか判断していきます。

Q:ドライマウスにはどのような治療が行われるのですか?

斎藤先生:潤滑油としての唾液が枯渇しているので、舌が痛いと訴えてくる方には、保湿剤で口の痛みをとってあげることが大切。痛みを取り除くためにも、先程お話したカンジタの検査をします。カンジタ症、真菌つまりカビが繁殖していないか。

Q:口の中に、カビが発生しているのですか?

斎藤先生::粘膜の中にはもともとカンジタは存在しています。口や膣にも。分泌液が充分あれば洗い流される。更に、唾液の中にはラクトフェリン、リゾチームといった抗菌作用をもつ物質があるので、口の中の雑菌の繁殖を防いでくれている。しかし。唾液の量が減る事で、カビが増えてきて、それが痛みにつながってしまうというケースが多いです。その場合は、抗真菌剤を処方します。保湿剤や抗真菌剤を処方しても痛みがとれない時は、心因性やホルモンバランスなどの要因を考えて治療をしていくことになります。

―― ドライマウスの予防について ――

Q:では、ドライマウスの予防についてお聞きしたいのですが、
ガムを噛むのは有効なのですか?

斎藤先生:噛むという行為自体は健康維持のためにとても重要。動物は噛めなくなると、もう終わりなんですよ。ライオンでも豹でも。最近は「これ柔らかくて美味しいね」ってみんな柔らかいものばかり食べるじゃないですか。そうするとやっぱり人間の機能としては衰える。「噛み応えのあるもの食べなさい」と言うアドバイスをするのは、しっかり噛める歯で噛めば直接脳を刺激するし、噛めば唾液がでる。噛めば筋力がついてくる。75歳以上の死因の第1位は肺炎。誤嚥性肺炎といって、口の中の雑菌が肺に入り肺炎を起こす。筋力のちゃんとある人は、飲んでもちゃんと胃に入っていく。バイ菌は口の中にいっぱいあるけれど、胃酸で殺されればそれでOKなわけ。だけど、むせるっていうのは筋力が弱っている証拠。むせると肺に菌が入ってしまい、その後感染症になって亡くなる。だから口の周りの筋力を鍛えるのは非常に重要なこと!こうやって、お話することとか、噛み応えのある食事をすることは、とっても大事なのですよ。今は、1日の咀嚼時間が30分を切ったといわれている。

Q:噛み応えのあるものってあまりないですよね?

斎藤先生:ほんとはいっぱいあるけれど、柔らかくて美味しいという現代の価値観が問題。

Q:1日どのぐらい噛んだほうがいいのでしょうか?

斎藤先生:1日どれぐらい噛めばいいかはわからないですが、よく1口30回噛みなさいとか言われていますね。ただ実際には、数なんか数えられない。いち、にー、さん、なんて数えていたらご飯がまずくなる。とにかくよく噛むことですね。

Q:では、なるべく噛もうという意識を持つだけで変わってくるのでしょうか?

斎藤先生:「噛もう」という意識を持つことが大事だと思います。繰り返しになりますが、噛み応えのある食材を食べること、キシリトール入りのガムもおすすめ。唾液の量が増え、噛む力の訓練になり、ストレスの解消にもなる。キシリトールは虫歯予防にも適しています。

―― 後編へ続く⇒●口のアンチエイジング・口の重要性について

斎藤一郎先生
●略歴
1954年東京生まれ。
2002年より鶴見大学歯学部教授。
2008年から附属病院長。
日本のいくつかの歯学部、医学部、そして米国(スクリプス研究所)で口腔乾燥症を呈するシェ―グレン症候群の研究に長年従事し、多数の論文、著書がある。
現在、免疫学、分子生物学の基礎研究と共にドライマウス研究会を主宰。歯科基礎医学会ライオン学術賞(2002年)、日本病理学会学術研究賞(2003年)等を受賞。日本抗加齢学会理事、アンチエイジング医学編集員。
●鶴見大学歯学部附属病院HP

 

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