“アンチエイジングな食生活”を抗加齢医学の権威に伺う~後編
“アンチエイジングな食生活”を抗加齢医学の権威に伺う~後編~
―― アンチエイジングには食物繊維が必須――
Q:他にも食物繊維をとる方法はありますか?
白澤先生:ここまで、外食が多い方の、朝食とお昼の選び方をお話しました。もうひとつは、お酒の席になった時の食べ方も気をつけましょう。私はもともとアルコールに関してはこだわりがあるので、ワインをお勧めします。お酒を飲むなら赤ワイン。これは脂っこいものを食べているフランス人に心臓病が少ないという「フレンチパラドックス」で証明されているように、赤ワインに含まれるポリフェノール抗酸化作用は有名です。またポリフェーノールの一種、レスベラトロールが長寿遺伝子に直接働きかけ、酵母菌の寿命を延ばしたという研究を発表もあります。更に、少量の赤ワインで、認知症予防につながったというエビデンスもあります。
ですが、日本酒が好きな方に急に赤ワインに変えなさいといってもね(笑)。お酒は適量と自分で把握しておく必要があると思います。グラム数にして20~30g。ビールだと500CC。ワインでもグラス3杯ぐらいです。
Q:甘いものは、控えたほうがいいのでしょうか?
白澤先生:最近お菓子の本を出版しました。お菓子をダメダメというよりも、これを食べて下さいと、前向きにお菓子を見直したという一冊です。スイートポテトのように見えてごぼうのお菓子とか。食物繊維が豊富で、全て200カロリー以下。「雑穀入りのおはぎ」は気に入っているレシピで、これでエビデンスをとる予定です。今週は雑穀位入りおはぎ、来週は普通のおはぎと、食べてもらって血糖値を測ります。血糖が抑えられるはずです。他にもほうれんそうのロールケーキやトマトを使ったケーキとか、結構チャレンジングなものは焼リンゴのラスク。砂糖、バター、控えめなので、糖尿病、低血糖にも安心な食物繊維が豊富なスイーツ。試していただけると嬉しいですね。
Q:そんなベーシックなことを守るだけで、認知症のリスクは下がっていくのですか?
白澤先生:いくつかエビデンスがあって、野菜ジュースを週3回飲むと、週1回未満の方に比べて、アルツハイマー病のリスクが軽減していました。(下記データ参照※日系米国人1836人を対象とした大規模免疫学調査Kameプロジェクト)
毎日、飲めばいいと思います。50歳からでいいと思います。繰り返しになりますが50~55歳で脳の変化は始まりますから。後はお魚です。お魚には認知症の防御因子であることが世界中の免疫調査から判明しています。特に魚に含まれている成分の中で、不飽和酸脂肪酸DHAは高脂血症の改善による心疾患リスクの低減効果が有名です。
―― アンチエイジングなお買いもの――
Q:食材を選ぶコツを教えてください。
白澤先生:色です。スーパーマーケットに行った時に、色を揃えましょう。5色から7色ぐらい。野菜と果物で。野菜や果物は、過酷な環境で生き伸びるためには、相当ポリフェノールの濃度、抗酸化能が高くないと、自分のDNAを守れない。したがって抗酸化作用が強い食材です。柑橘類に関しては、南国で日射条件が厳しいほうが、活性酸素を除去する能力が高ということはわかっています。色を揃えながら柑橘系は南国のものを選ぶのがいいでしょう。後は単品を食べ過ぎないこと。食べすぎている場合には、必ず身体が反応してアレルギーを起こします。バランス良く食べている分には大丈夫でしょう。
Q:乳製品もアンチエイジングにいいのでしょうか?
白澤先生:東京都老人総合医療研究が、秋田県の何外村というところで、介護になりにくい要因を調査しています。食事では、牛乳もしくはヨーグルトといった乳製品を毎日摂取している人は介護になりにくいということがわかっています。カルシウムの吸収は小魚といった海のものよりも、乳製品のほうが効率的に吸収できます。介護は骨そしょう症で足腰がダメになるっていうのと、認知機能の2つも問題があります。足腰の方は、これいったんダメになるとじり貧ですので…。私たちの調査では1日200CC。ヨーグルトだと1個。毎日食べてる人のほうが、擁護がいいです。
Q:やはりピンピン生きるとコロリと死ねるのでしょうか?
白澤先生:私が調査対象にしていた三浦敬三さんや板橋ミキさんというのは100歳で元気でしたし、彼らの療養期間は数カ月です。長い人生の102年間とか105年からみれば、ほとんど“ぴんころ”に近いです。
Q:ある程度生活習慣を自分でコントロールすれば100歳まで生きられるのですか?
白澤先生:認知機能と骨がダメになったら、介護にはなりますね。でもそれだけじゃ死ねないので、ベッドの上で生きていますよね。いきなり死ぬ病気になればいいわけです(苦笑)。認知症はワクチン開発が進められていますので、解決できる問題になるかもしれないです。しかし、足腰は課題として残るでしょうね。乳製品を意識してとったほうがいいでしょう。
Q:白澤先生ご自身はそういった食生活を守られているのでしょうか?
白澤先生:だいだいそうですね。食生活も一定になって体重もだいだい一定ですね。身体の調子が良くなるというより、車と同じでメンテナンスです。年間激しく動き回っていますので、それを維持する体力とかリズムとかを維持していくために。
―― DHEAも若さの秘訣? ――
Q:バランスの食事・適度な運動・質の高い睡眠がアンチエイジングにいいのはわかりました。しかしそれを継続するパワーはホルモンというドクターもいらっしゃいますが?
白澤先生:全てのことはホルモンで説明できるという先生もいらっしゃいますが、必ずしもそれだけで生きてるわけではない。しかし、それで説明できる部分も多いです。男性ホルモンであるテストステロンがもっと注目されるべきというのもわかります。しかしすべてはそれで説明できない。
Q:例えば、男性更年期といわれる症状では、男性ホルモン量が減ったからうつ症状がでるのでしょうか?
白澤先生:女性の場合は閉経がありますが、男性の場合は徐々に徐々に、減ってくるんです。男性ホルモンにしても、成長ホルモンにしても。その現象に身体は順応しながら、だんだん衰えて、そのホルモンの身の丈にあった身体になりますね。私はDHEAというのを研究対象にしているのですが、この副腎からでるホルモンがどのような生理学的な役割をはたしているかというのは、まだよくわかっていないのです。しかしDHEAが高い人はやはりすごく若々しく見える。日野原先生もしかり。私たちが介護予防に出た現場でDHEAを測って、DHEAの値がわかっている人の写真を若い順に並べると、やっぱりDHEAが高いほとんどの人が「この人若い」と並べる。だから、確かにホルモンって若さをつくってることはある。ただし、DHEAが高い人は環境要因にも左右されていることが、最近の赤毛ザルの実験でわかっている。カロリー制限している猿のほうが、DHEAが高い。
Q:ストレスも関係があるのでしょうか?
白澤先生:あると思います。ストレスと与えるとDHEAはどんどん下がると思いますね。
Q:ホルモン補充をすれば見た目も若返りますか?
白澤先生:そう考えて研究者もいる。DHEAをタブレットで飲むということもやっているのですけども、評価項目によりますけれど、賛否両論分かれます。若返れるという論文と若返ることができないという論文と二つに分かれます。DHEAというのは代理になっているのではないかというのが私の考え方です。DHEA自身が身体を若くしているのではなくて、他のものがあって、それがDHEAと連動してる。DHEAはほんとうの若さをつくっているものではないけれど、本当の若さをつくっているものとDHEAの動きが連動してるので、非常に若く見える人は、DHEAの値が高いと考えられます。
Q:もう一つ何かあるということですか?
白澤先生:もうひとつかどうかはわかりません。DHEAというのはですね、脳下垂体のホルモンにほとんど影響を受けてない。何に影響を受けているかというと、副腎というところから出るのでるので、この副腎をすりつぶしてみると、この副腎の中の、過酸化脂質の量と、DHEAの量は良く相関するのです。ということは副腎というのは脂肪に富んだ組織で、いったんそこが錆つき脂質が過酸化すると、ずっと蓄積する。そうするとその副腎皮質の過酸化というのが、その人がどのくらい身体が錆ついているかという、いい指標になっているじゃないかと考えられる。そうするとDHEAが高い人というのは、元々身体が錆きにくい人なんじゃないかと仮説がなりたつわけです。そうすると元々身体が錆つきにくいので他の部分も錆ついていない。だからDHEAが高いということは、脳や他の部分の錆つきも非常に少ない状態で保たれている可能性が高い。そういう人が若々しくみえるというのは理屈にかなってるかもしれない。
Q:最後に白澤先生からアンチエイジングネットワーク会員にメッセージをお願いします。
白澤先生:まず、これがいいというよりも、ダメなことをやめる方が、効果が圧倒的に大きいです。みなさんよく知っているんですよ。例えば、タバコとか、お酒をたくさんのむとか、朝食を抜いてるとか。あまりよく認識されていないのが、さっきお話したコーヒーショップに行くこと。ですが、アンチエイジングネットワークの会員の方であれば、ファストフードはよくないといったことは充分に分かっていると思います。ですから、まずは悪いものを避けていくというのでだいぶ違うと思います。逆にサプリを大量に飲んでいる人は、後ろめたいことがあるから飲んでいるケースがまあ8割。それあえて飲むよりも辞めた方が、経済的に効果的ですよってというのが僕のメッセージですね。現代人の中にはわざとストレスをつくってる人もいますね。職場でワークホーリックになって。睡眠時間とか、余暇時間の確保とかですね、そういうのも考え方ひとつでつくれますので。まず、飲み会に行って会話の中の愚痴が8割だったら飲みに行かないほうがいいですね。家に帰って休んだほうがいい。
睡眠時間は一般的に7時間ぐらい寝ている人が一番長生きだという風に言われてますけど、それは何十万人というアメリカ人のデータからの結果なので、日本人の我々に当てはまるかはわかりません。確かいに4時間ぐらいしか寝てなくて、日野原先生もあまり寝てない。だけど長生きしている人もたくさんいます。
若さを維持するために、まずは悪い習慣をやめるところからはじめてください。
白澤卓二先生 ●略歴 1958年神奈川県生まれ。 千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。 同大大学院医学研究科修了、医学博士。 東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、 分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーを経て現職。 専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学、アスリートの遺伝子研究。著書に「老化時計」「長寿と遺伝子」「アンチエジング・クッキング」「健康寿命を延ばす」「100歳まで元気に生きる食べ方」などがある。 ●順天堂大学 大学院医学研究科 加齢制御医学講座 |
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