第Ⅰ章 鏡よ鏡(1)「老いの兆し」
50歳になったある日、僕は鏡を見て愕然となった。もみあげに数本の白いものを見たのである。
白髪である。
それまで歳を意識したことが無かった僕である。
まだ若いつもりでいたのが、肉体に裏切られたというショックであった。
“鏡よ鏡”と問いかけた時、 それまでとは打って変わって、“白雪姫が世界で一番美しい”と返されたお妃様のショックもかくやという思いであった。
当時、僕は北里大学で、形成外科の教授として再建外科だけでなく、美容外科の手術にも携わっていた。
まだ形成外科がやっと認められ始めた頃で、美容外科は美容整形と呼ばれる日陰の華で、それを標榜する大学病院は、昭和大学と北里大学だけであった。
患者の殆どは隆鼻術か二重まぶたの手術であったが、フェイスリフト(シワ伸ばし)も欧米並みに増え始めていた。
後述するが、フェイスリフトは時間もかかり、鼻の手術などに比べて気骨が折れる割に、造形の面白みの無い手術である。
“なんでこんな手術を?”と大学病院勤務の気安さで、患者に聞いたことがある。
“先生ね、女がこんなことを決心する時は、男に逃げられそうな時か、追っかけている時よ。”返ってきた答えに、シュンとなった覚えがある。
そして今、我が身に降り掛かった白髪を眺め、男の僕でもこれほどの打撃なら、女性がシワの一本や二本に憂き身をやつすのも当然と、改めて納得した。
塩谷 信幸(しおや・のぶゆき) アンチエイジングネットワーク理事長、北里大学名誉教授、 AACクリニック銀座名誉院長、創傷治癒センター理事長 現在、北里研究所病院美容医学センター、医療法人社団ウェルエイジングAACクリニック銀座において診療・研究に従事しているほか、日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員として形成外科、美容外科の発展に尽力するかたわら特定非営利活動法人 アンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。 【著書】 |
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