第Ⅰ章 鏡よ鏡(2)「若返りの術2」
話を元に戻すと、当時フェイスリフトは、アメリカでもやっと広がり始めた頃で、日本ではほんの僅かの人を除き、大半にはまだその存在すら知られていなかった。
当然ながら、患者も隠れて手術を受けたがり、術者の方も医学界の指弾を恐れ、ひっそりと患者の要望に応えていた。
1970年代、フォード大統領夫人が、自ら手術を受けたことを公表し、タイム紙上に術前術後の写真が掲載された。これをきっかけに、言わばこの手術が解禁となり、爆発的に広まって行ったのである。
よく聞かれるのは、フェイスリフトで何歳位若返るかという質問である。
手術法や患者にもよるので一概には言えないが、まあ、5〜10歳位とお答えすることにしている。
皮膚の剥離を広範囲に行い、深部組織である筋膜も十分吊り上げれば、それだけ効果は上がるが、やり過ぎると顔が突っ張って表情が無くなる。ほどほどにすれば、またすぐ戻ってしまい、効果が持続しない。このバランスが外科医の腕の見せ所と言える。
サフォクリニックの白壁院長は、患者に仰向けに寝てもらうことで、頬部の皮膚が耳の方に流れて顔のたるみが改善する状態を作り、これを鏡で確認させ、手術効果の目安と説明されている。非常に上手なシミュレーションである。よく患者自身がやるように、立ったまま手で皮膚を引っ張り上げると吊り過ぎであり、また、そこまで手術で皮膚を取るのは、見た感じもやり過ぎとなるからだ。
今から半世紀以上前、随分昔の話だが、アメリカの名門医学校ジョンズ・ホプキンスから美容外科手術患者の満足度の分析が報告されたことがある。
対象となった手術は、鼻の手術(アメリカにおいては鼻を削って小さくする手術)とフェイスリフトであり、男女別で計4グループに分けられていた。
中でも最もヤバイのは、男の鼻。これは納得がいく。
ヤバイというのは、手術に満足しないか、精神的に問題があるという意味である。
男でも容姿を気にするのはやむを得ないとしても、手術に踏み切るのは女性に比べ、心理的にも社会的にもハードルが高い時代だったのだ。
そして最も安心なのは、女性のフェイスリフトのグループだった。
年齢的にも5、60代で精神的に成熟しており、自分で手術の得失を判断できるからという解釈であった。
ちなみに、こと美容整形に関しては、“所詮私の虚栄心よ”と自分を客観視し、肯定できる人が患者として最も望ましいというのが、我々美容外科医の常識である。
塩谷 信幸(しおや・のぶゆき) アンチエイジングネットワーク理事長、北里大学名誉教授、 AACクリニック銀座名誉院長、創傷治癒センター理事長 現在、北里研究所病院美容医学センター、医療法人社団ウェルエイジングAACクリニック銀座において診療・研究に従事しているほか、日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員として形成外科、美容外科の発展に尽力するかたわら特定非営利活動法人 アンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。 【著書】 |
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