第Ⅰ章 鏡よ鏡(5)「ジェロントフォビア」
日本文化には老いを忌み嫌う風習はあまりなかったのではなかろうか。
あえて敬老とまで言わずとも、年寄りの男性は「翁」と呼ばれ、「ご隠居様」という種族にはそれなりの立ち位置があった。
その代表が水戸黄門と言えよう。
また、年老いた女性は「媼」と呼ばれ柔和の象徴であった。
それに反し欧米では、ジェロントフォビアという言葉があるように、老いは忌み嫌うものであった。ジェロントは「老い」、フォビアは「恐怖症」である。
直訳すれば「老化恐怖症」であるが、ドイツのルネサンス期の画家であるアルブレヒト・デューラーが版画で残酷なまでに描いたように、「老醜恐怖症」と呼ぶべきかもしれない。
それは嫌悪の対象が「老い」そのものよりも、「老い」イコール「醜」という価値観が根底にあったからだ。
西洋では、なぜ「老い」が「醜」とされたか。
医学的には、骨格の違いも関係するという考えもある。
西洋人の顔は彫りが深い。美術解剖では「面張り」と言って、若い頃はそれが立体的な美しさを醸し出す。
ところが、年を取るとそれが仇となり、鬼婆の様相を呈するのである。
最後に、美容整形を揶揄したパーティジョークを一つ。
“さる人気女優が、寄る年波に勝てずフェイスリフトの手術を受けたという。
何度も繰り返し手術を受けていると、ある時、下あごにえくぼが出来たと言う。
それでも手術を繰り返していると、今度は下あごにひげが生えてきたそうだ。
ここで皆はどっと笑うが、お分かりだろうか。
えくぼは「リフトアップされたおへそ」と言えば、ひげは説明しなくとも・・・。
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塩谷 信幸(しおや・のぶゆき) アンチエイジングネットワーク理事長、北里大学名誉教授、 AACクリニック銀座名誉院長、創傷治癒センター理事長 現在、北里研究所病院美容医学センター、医療法人社団ウェルエイジングAACクリニック銀座において診療・研究に従事しているほか、日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員として形成外科、美容外科の発展に尽力するかたわら特定非営利活動法人 アンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。 【著書】 |
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