第Ⅱ章 花の命は短くて(2)「花の命は短くて」「老化の原因」
花の命は短くて
先ほどの花選びの場面を思い出そう。
相手の好みを考えながらあれこれ迷った末、黄色のバラを選んだとする。
勿論蕾は硬めのものを。
それは相手の手に渡って、艶やかに開花するが、やがては茶色に萎んでしまう。
その萎んだのを選んで送る人はいない。美しい花で相手を喜ばせたいからである。
そのためには若い花を選ぶ。
つまり、ここでは「若さ」=「美」であることに何の疑問も感じない。
だが、人の場合にはことはそう単純ではない。
さもなければ、「美しく老いる」ということは矛盾であって、不可能となる。
人においての「美」を考える前に、ここで「人はなぜ老いるのか」について考えてみたい。
この問いは二つの意味を持っている。
まず、老いの原因というかプロセス論である。
もうひとつは、なぜ老いなければならないのかという、いささか哲学的な議論である。
医者としてモノが言えるのは前者なので、まず前者から始めよう。
老化の原因
現時点で分かっている主な原因を列挙すると、次の6つになるであろう。
1.細胞時計:テロメア、長寿遺伝子
2.染色体の損傷:活性酸素、染色体の読み違え
3.ホルモンの減少
4.免疫機能の低下
5.活性酸素説
6.糖化説
1.細胞時計:染色体は、そのしっぽの部分にテロメアというアミノ酸の鎖がついている。テロメアは細胞分裂の度に短くなり、あまり短くなると細胞は分裂を止め、やがて自滅する。これが個体の老化に繋がるとされている。
細胞は上手く出来たもので、短くなったテロメアはテロメラーゼと言う酵素が復活させるが、これには限度があり、テロメアが失われず細胞分裂を無限に続けるようになったのが、癌細胞とされている。
また、染色体自体にも、老化や長寿に関わる遺伝子があることも分かってきた。
2.染色体の損傷:染色体は分裂の度に、時折、遺伝子のアミノ酸の取り違えを起こす。また、紫外線や酸化ストレスでも遺伝子の変異は起こる。これも老化の原因となる。
3.ホルモンの減少:加齢と共にホルモンの分泌は全て減少する。例えば成長に不可欠な成長ホルモンは二十歳をピークに急速に減少する。
女性ホルモンは45から50にかけて、すとんと分泌が落ち込み、更年期障害を引き起こすことはよく知られた現象である。最近は男性でも、男性ホルモンが女性同様加齢と共に減少することが分かり、男性更年期という事も言われるようになった。現象の速度が緩やかなため、あまり自覚症状に悩まされることは無いようだ。
4.免疫脳の低下:加齢と共に免疫能も低下し、感染に弱くなる。だがこれは免疫細胞の数が減少するのではなく、個々の免疫細胞の機能が低下するためとされている。
5.酸化ストレス:細胞はミトコンドリアという細胞内の器官でブドウ糖を酸素で燃焼し、エネルギーを産生する。その際、どういう訳か数%だが活性酸素と言う悪さをする酸素を発生させる。これが他の分子に取っ付くと酸化であり、錆びとなる。こうして組織が劣化して行くのも、老化の大きな要因と考えられている。
6.糖化ストレス:糖分が過剰であると、他の組織について糖化を起こす。特に困るのはタンパク質と結びついて編成を起こし、AGEと呼ばれる老廃物になることである。
1と2は、染色体が原因の細胞自身の老化で、やっとその一端がわかり始めた段階であり、まだ直接治療には至っていない。
3と4は、機能低下として括られるが、ホルモン補充療法として、ある程度補正は可能である。
5と6は、いわゆる老廃物であり、抗加齢医学の対処法は一番進んでいる。
今挙げたのは全身の老化の原因であり、当然ながら皮膚も全身の臓器の一つとしてその影響を受ける。
だが皮膚の場合は他の臓器と違い、紫外線の悪影響が加わる。
皮膚の老化の原因の8割は紫外線障害であると皮膚科の専門家はおっしゃる。
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塩谷 信幸(しおや・のぶゆき) アンチエイジングネットワーク理事長、北里大学名誉教授、 AACクリニック銀座名誉院長、創傷治癒センター理事長 現在、北里研究所病院美容医学センター、医療法人社団ウェルエイジングAACクリニック銀座において診療・研究に従事しているほか、日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員として形成外科、美容外科の発展に尽力するかたわら特定非営利活動法人 アンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。 【著書】 |
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