第Ⅶ章 秘すれば花~美とは~(5)「脳は美をどう感じるか?」
脳は美をどう感じるか?
最近は従来のレントゲンに加え、CT、MRIなどの画像診断が進歩し、特にfMRIという手法で、脳の働きがリアルタイムで解析できるようになった。
慶応大学の川畑教授は画像診断を駆使し、その成果を「脳は美をどう感じるか?」という刺激的な御本に纏められている。
それによると、眼球の後ろ側の網膜で受け止められた光の刺激は、まず大脳皮質の後ろにある視覚領域に送られる。そこでは、その光はあくまで色のドットのマップにすぎない。それをある像として認識するのは、大脳のまた別の領域である。そしてその領域では、景色と物体と人の容貌を認識する部位は別々であるという。
その情報はさらに大脳の報酬系に達し、ドーパミンが分泌されると快感、業界用語ではプリージングという感覚、を覚える。その際、大脳皮質とのやりとりがあり、美というのはその高次の脳の働きで生まれる抽象概念とされている。
そこまでは、美もエロスも同じプロセスをたどる。だが美の場合では、ここで完結してアートとして楽しめる。だがエロス、もっとはっきり言えばいわゆるポルノの場合は、ここから行動に移ろうとする。この意欲の座は前頭前野の辺りらしい。それをリビドーと言ってもよい。これが僕なりのアートとポルノの境界線である。
ところで風景と物体と人体が別々の領域で認識されるとすれば、それぞれが与えるプリージングという「快感」にも違いがあって良いのではなかろうか。
事実、風景の場合、何か包み込まれるような安堵感を感じる。これが物体となると、例えば茶器など、手にとって愛でるという感覚が生じる。ところが人体となるとどうか?何か一体感といった働きを感じるのではなかろうか。そしてこれは先ほどの、プラトンのエロスの世界となる。ここでちょっと面倒なのは視覚の美を論ずる場合、対象がそのものよりもそれを描いた絵画、写真などを意識することが多い。つまり間接的である。ことに人体で、しかも裸体の場合は決して日常茶飯事に遭遇する訳ではない。だが絵画や写真はそれ自体がアート作品、つまり美の対象であるという難しさがある。
しかも人間の場合、感覚は視覚だけではない。聴覚、触覚、嗅覚そして味覚という五感がそれぞれの美を主張する。これらの分野での美の議論はこれからであろう。
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塩谷 信幸(しおや・のぶゆき) アンチエイジングネットワーク理事長、北里大学名誉教授、 ウィメンズヘルスクリニック東京名誉院長、創傷治癒センター理事長 現在、北里研究所病院美容医学センター、医療法人社団ウェルエイジングAACクリニック銀座において診療・研究に従事しているほか、日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員として形成外科、美容外科の発展に尽力するかたわら特定非営利活動法人 アンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問としてアンチエイジングの啓蒙活動を行っている。 【著書】 |
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