ピエタ
「アンチエイジングの専門家がナビゲート」(ガイド:塩谷信幸)
何故、女性が痛みに耐みをこらえてまで美と若さを求めるのでしょう。
「それにしても、人は何故痛みをこらえ、これほどの思いをしてまで、若さを求めるのか」
そのままで十分魅力的な女性の顔にメスを入れ、顔の皮を剥がし、顔面神経に気を遣い、術後の出血が気になって気になって、皺伸ばしの手術に疲れ果てた時、僕はしばしば自問したものです。
ある女性患者が答えてくれました。
「先生。女がね、こんな決意をするのは、男を引き留めようとしているときか、必死に追いかけているときなのよ。」
こうさらりといわれ、ずしりときたことがあります。
しかし、最近はそんな思い詰めた様子とも思えない、あっけらかんとした患者さんも増えてきました。
一部の心無い医師の宣伝に惑わされてか、化粧感覚で手術を受に来る患者には、こちらが戸惑ってしまいます。
最近では、男の皺伸ばしも珍しくなくなりました。ことにアメリカでは、転職に有利というのが錦の御旗の様です。日本では、未だ爺むさいほうが政界でも、実業界でも幅を利かしているようですが。
そして、まだまだわが国では、美容の手術は胡散臭い目で見られ、受けるほうも後ろめたさをぬぐえないようです。
しかし、形の美にこだわるのはいけないことでしょうか。そして、若さに美を感じることは。
ここで一つ開き直って、「形より心」という道学者への反論を試みましょう。
ここに誰でもが知っている親しみ深い彫刻があります。
ミケランジェロのピエタです。
これほど写実的なのに、よく見るとおかしなことに気づきませんか。
キリストは30才で布教を始め、3年後に張り付けにあったとされています。すると33才。マリアはその母なら、当然50才は過ぎているはずです。しかし、このマリアは、キリストより遥かに若い、20才の乙女です。
「何を無粋な、これは造形の要請なのだ。」
と言われるかも知れない。そこが問題なのです。これがおかれているのはカトリックの本山バチカン。心の世界の指導者です。
そこでも、女性の美を表すのに若さに頼らざるを得なかったという事実を、どう受け止めるのか。
さあ、この辺で我々は、「形より心」という建前のくびきを解き、本音に立ち返ったら如何なものでしょう。
Written by 理事長 塩谷信幸
筆者の紹介
塩谷 信幸(しおや のぶゆき)
NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長、北里大学名誉教授
東京大学医学部卒業。フルブライト留学生として渡米し、オルバニー大学で外科および形成外科の専門医資格を取得。帰国後、東京大学形成外科、横浜市立大学形成外科講師を経て、北里大学形成外科教授、同大学名誉教授。 現在、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療と研究に従事。日本形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会名誉会員として形成外科、美容外科の発展の尽力するかたわら、NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長、日本抗加齢医学会顧問としてアンチエイジングの啓蒙活動を行なっている。
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