男をもっと知って欲しい (15) 男にもある更年期障害
「アンチエイジングの専門家がナビゲート」(ガイド:熊本悦明)
男性更年期障害について寄せられた質問にお答えしたい
§男にもある更年期障害
今から30年前の1979年(昭和54年)、東京で開かれた第20回日本医学総会の「更年期障害」のシンボジウムで、私が男性にも女性同様の更年期障害があると報告した時は、社会は勿論のこと、医学界の大先生方からも、男性の更年期障害があるなどというのは暴論であり、「変なことを言うな」と大分厳しい批判を受けたことが忘れられません。
しかし、最近は、その後の医学の進歩や我々の啓蒙もあって、時代の流れとして医学界また社会的にも、男性にも更年期障害というものがあり、かなり中高年男性を悩ませているという認識が高まってきております。
これは働き盛りの50代の辛い思いをしていても口にも出せず、ストレスの多い管理職的仕事をも黙々とこなしている中高年男性方には、大変有難いことといえましょう。その体調不全に対して周囲の理解を得られる様になったことは、救いの道が開けたことになったといえます。
それでも、まだまだ中高年男性の辛さへの理解が充分に進んでいるとはいえません。その証拠のように“男性更年期障害って、実際どんな症状なの?”などと、よく質問されます。
そこで、このアンチエイジングネットワークの地方の会員から、まさに男性更年期障害といえる症状についての質問が、丁度寄せられましたので、それにお答えしながら、男性更年期障害について、皆様の正しい理解を得るために、少し詳しく解説してみたいと思います。
質問は次のようなものです。
50才代前半の男性で、最近次の様な色々な症状がでるようになりましたが、医師に診てもらったほうが良いでしょうか?と言うようなものです。
(1)動悸がする(2)不安になる、(3)いらいらする、(4)落ち着かない、
(5)精力減退(夫婦間5年以上なし)、(6)トイレが近く、すぐに行きたくなる、
(7)しかし夜は良く眠れるし、食欲もある。
これらの症状群の殆どは、まさに典型的な男性更年期障害の症状といえましょう。
そもそも更年期とは、子供を創る生殖能が終わり、それを支えていた性ホルモンが減少してくる年代なのです。 個々人により、かなり差はあるのですが、女性では大体50才代前半、男性では50才代後半をピークにそのようなことになるのです。何故起きるのかという問題の説明は、長くなるので別の機会に説明することにしますが、その時期に、更年期障害に見舞われる可能性は高いのです。
女性では月経が無くなる頃の症状として受け取るので、本人にも比較的判り易く、それなりに医師に相談する方が多いのですが、男性ではそのような判り易い生理的変化が無い為、色々な不定愁訴気味の症状を、更年期障害症状と自覚し難く、仕事が忙しいので疲れているだけで、何とか頑張らねばと一人苦しんでいる方が少なくないのです。
症状はかなり多様なのですが、以下に列記したような症状が、個々人により
色々な組み合わせで、起きてくるのです。
(1) 動悸がする、顔がほてる、耳鳴り(心血管系症候群)
(2) 肩凝りがひどい、腰痛、疲れ易い(運動器官系症状)
(3) 手のこわばりや痺れを感じる(知覚症状)
(4) 不眠、体調不全、くよくよする、不安感が強い(精神・神経症状)
(5) 性的欲求が減退し、早朝勃起を気付かなくなる、性交回数も減少
(1)~(3)までと(5)は、男性では男性ホルモン、女性では女性ホルモンの低下による症状群といえます。
(4)の精神・神経症状は、生活上の心理的ストレスによる反応性うつ症状なのです。生殖年代が終わりとなる頃、脳が生理的ストレスにやや弱くなり、若い頃には影響を受けないのに、この年代になると強く影響を受けて、この様なうつ反応を起こしてくるのです。
興味あることに、これらの症状は、性機能の表現が男女で異なるのみで、他の症状は殆ど全く同じ訴えが、更年期障害症状としても出現して来ているのです。ただ前述した様に、その発現時期が、女性が50才代前半、男性が50才代後半になるという性差があるだけなのです。いうならば更年期症状は女性の専売特許ではなく、男女共通の加齢による臨床症状といえます。
それぞれの方のこれらの症状の程度を知る為に、私は表Aの様な熊本式質問紙を創り、患者の方々に自己チェックをして頂いております。
この種の質問紙では、よく点数制にしてにして、何点以上は“更年期障害”ありとなどと、判定基準を決めている形式のものが多いのですが、私は点数制に問題あるという考えを持っていますので、別の考え方で判定しております。
症状のうち3+++以上が2つ以上あれば、問題となる辛い更年期障害ありと判定して、医学的治療の対象としております。しかしそれ以下の方でも、健康管理ということで、それなりの指導・カウウンセリングの必要があることが少なくないのですが……。
そしてもう一つ、遊離テストステロン(男性ホルモン)を始めとする各種の関連ホルモンの血中レベルも検査します。
血中遊離テストステロン値の一応健康日本男性の年齢別分布を示しますと図Bの様になっております。一般の方々にはそのテストステロン値は日常的な身近な値ではないので取り付きにくいものでしょうが、男性更年期障害と診断する場合は重要な意味を持つものですので、注意しておいてください。
年齢により差があるのですが、大雑把に言えば遊離テストステロン値が12pg/ml以上あれば一応健常値、12~8 pg/mlは少し低めであり8~4 pg/mlは大分低値、4pg/ml以下は、非常に低くなっていると解釈されます。
そして、8pg/ml以下はその低値が症状発現に関与していると考えて、テストステロン補充療法を行うことになります。ただ8pg/ml以上でも多くの場合、若いときのデータはないのですが、若い時はかなり元気であったので、恐らくかなり正常平均より高かった為、現在正常域とはいえ下限近くまで下がってきており、その方にとっては、身体的にテストステロン低下状態にあり、それが症状発現に結びついていると推定されることが少なくありません。そのような方には、念のためにテストステロン補充をして経過を見てみることにしておりますが、大抵は問題の症状の改善をみることが少なくありません。それは臨床人間医学の難しさを感じさせるエピソードといえます。
また興味あることに、いろいろな精神・神経症状も、うつ反応性症状が強い場合はSSRIなどという抗うつ剤投与が必要となりますが、あまり強度でない場合、テストステロンだけで改善することが多いということです。
うつ病やその関連疾患にもテストステロン低下があるとされておりますが、男性更年期症状としての反応性うつ症状の原因として前述したストレスへの脆弱性はテストステロン低下が重要な発生因子と推定されることから、テストステロン補充の臨床的効果も当然のことと云えましょう
いずれにしても男性にとって、テストステロンは男として創られる時も重要な役割を担っておりますが、男として生きて行く為の、車に喩えれば、エンジンオイル的役割を果たしているのです。その為、これが少なくなってくることは男性としての身体全体の機能維持に支障をきたして来ることになるのです。
成人期では性機能低下、中年期には更年期障害、そしてそれに続く中高年期では、メタボリック症候群が発症したり、また高血圧や糖尿病症状増悪にかなり拍車をかけているとされております。
さらに加齢問題として注目すべきは、前述の遊離テストステロン値が低くなる様であると、その後の寿命が短くなっているという深刻なデータも出てきております。あくまでも男性にとってテストステロンはエンジンオイル的なKey的な役割をしていると言って過言ではありません。
そのため、中高年男性にとって遊離テストステロンチェックは重要な健康管理のポイントといえます。ところが現在の成人の人間ドック・システムでは、そのチェックが殆ど行われていません。臨床上の大きな問題といえましょう。
筆者の紹介
熊本 悦明(くまもと よしあき)
日本Men’s Health 医学会理事長
日本臨床男性医学研究所所長
NPO法人アンチエイジングネットワーク副理事長
著書
「男性医学の父」が教える 最強の体調管理――テストステロンがすべてを解決する!
さあ立ちあがれ男たちよ! 老後を捨てて、未来を生きる
熟年期障害 男が更年期の後に襲われる問題 (祥伝社新書)
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