男をもっと知って欲しい (20)更年期の抱える医学的・社会的問題点をめぐって
「アンチエイジングの専門家がナビゲート」(ガイド:熊本悦明)
更年期は医学的問題だけでなく、夫婦間の心理的交流問題も大事
§更年期の抱える医学的・社会的問題点をめぐって
前回は文化的な問題に集中しましたが、今回は医学的な話に戻します問題は、更年期は医学だけでない長寿化時代の大きな課題である事が御理解頂けたと思います。
図1は男女の体内における男・女性ホルモンバランスの推移を示しています。
図1
1)我々は男女とも性ホルモンをとしては女性ホルモンと男性ホルモンの両者をもっており、その両者の比・女性ホルモン/男性ホルモンで綜合的な性ホルモン作用が決まって来るのです。
そして女性ホルモン(E2)/男性ホルモン(T)比(E2/T比)は年令と共に図1の様に変動しております。幼児期はE2/Tはほぼ1なのですが、思春期になると女性ではE2が急上昇し、その比は0.5となり、逆に男性はTが急上昇するので、比が0.005となります。その比が図の如く更年期の女性ではE2はほぼ卵巣からの分泌がなくなるので、幼児期と同じ0.05となります。
一方、男性はTが徐々に下降するので、ゆるやかに0.005からE2の割合が上がりゆるやかにもとの0.05に戻るのですが、女性の様に更年期に完全に幼児期のレベルには中々帰らないのです。
2)その所見の他にもう一つ参考の図を見て頂きたいのです。
図2
男女とも睾丸卵巣の他に副腎より男女ともDHEAという男性ホルモンが分泌されていて、それがテストステロンより男性ホルモン作用としてはかなり弱く、テストステロンの男性化作用の5%程度とされております。その作用機序に関してはまだ学問的結論は出ておりませんが、多量のテストステロン(T)がある男性はテストステロンの影に隠れて、それ程男性化作用を発揮しないのですが、女性ではTが無い為に、そのDHEAがある程度の男性ホルモン作用を発揮しているのです。
そのDHEAは女性でも男性より少し低いレベルではありますが、図2の様に男女ともかなりな量が出ています。
そのDHEAが女性では男性ホルモン作用をそれなりに発揮しているのです。成人期は女性ホルモンEstrogen(E2)の量が多いので,あまりDHEAの男性ホルモン作用は出ないのですが、そのE2が更年期で急減すると、その作用が出てきてE2/T比が0.05にも戻ると、そのDHEAの男性ホルモン作用が表面化して来るのです。
それにより男性ホルモン作用が具体的に現れます。更年期過ぎると、女性でも鼻下に薄いながらも髭が目立ち出し、時々髭剃りが必要になりますし、注目すべき事はその男性ホルモンの作用で更年期後の女性の方が少し気が強くなってくるのです。
逆に男性は、男性としてのよい意味での攻撃性を支えていた男性ホルモン量が徐々に減退してくることで、少しづつ気弱になり、優しくなってくるという傾向が出てきます。これはかなり一般の方も家庭で具体的な経験があることではないでしょうか。この内分泌学的事実である、更年期頃より、女性側は気が強くなり男性側が気が弱くなるということの原因となり、夫婦間の力関係が少しづつ変わって来て、奥さんの方が夫よりかなり気性が強くなってくるという逆転現象が起きております。実際によく聞く話です。私の講義を聞いた女子大生がまさに然りと感想をもらしていました。
この体内の内分泌条件を背景に前に述べた様な更年期後の定年で社会より家庭へ回帰してきた日常生活での共同生活で、その生活の長年経験乗る妻側が、成人期とは違って女性優位の姿勢で対応してくる可能性がある訳です。
3)次に、日々の新聞の読み方が夫婦でかなり違いませんか。
生活の基礎が外向きでなく内向きの社会性がかなり抜けた日常生活中心になったといえ、先ず日々に通常夫は第一面の政治や経済記事から読み始めます。そして妻は通常三面記事か生活記事から読み始めるのが、一般的ではないでしょうか。そして、妻が政治・経済記事に目を通すことはあまりありません。同じ日常生活を過ごしていても、関心事が大分異なり、何となくすれ違いがあるのです。これはかなり重要な問題点と考えております。
そしてまた、女性は昔からの近くの友人や遠くても、電話などを含めてよく交流を続けている人が多いのに、夫は通常会社関連で社会生活から離れると今まで交流した人ともが遠くなり、しかも近くの日常的な付き合いも増えないのが一般的な情況といえます。
色々あげてみますと、持っている視点や範囲が異なることが目立つことになります。同じ趣味を持つなど共通のテーマを作る事の必要性がいわれているのはこのためと考えております。
4)しかも面白い注目すべきデータがあります。
前回にも紹介しましたが少し詳しく説明しましょう。図3に示す様に若い世代では夫妻ともお互いを恋人とか愛する人などと思う割合が高く、ほぼ同率であるのに40,50,60と年と共に、男性側はその割合があまり変わらないのに、女性側は相手を同居人と思っている率がかなり高率となって来ているのです。
図3
これには、前述してきた様な心理的背景があると言えますが、男性側には年々徐々に低下しつつあるとはいえある程度のレベルのテストステロンがあるし、その上、胎生期における脳のテストステロンによる男性的性格の方向付けもあり、生前生後の心身ともに創られた男性ホルモンの広い意味での性的思考性の影響は、弱くなってはきていても、あまり抜けていません。これは当然のことと言えます。一方、女性側のこの様な性ホルモンの変化は、性格的な変化に繋がり、さらに前回説明した文化的背景にもかなり強く影響していると言えます。
5)ではどうしたら良いのということになります。
男性には恋心は残っているが、女性には余りなく、女性はむしろ仲の良い気楽で気の合う女友達の方が楽しく面倒も少ないと言うことでしょう。
しかしそれが凡てではないことも事実であり、女性と言えども少なくともDHEAの作用により男性ホルモン作用による性意識はある筈といえます。
しかしこれからの益々の高齢化時代の男女関係について如何にあるべきか考えていく必要ありと感じています。
問題解決の一番の問題点は日本にpair文化がないことで、それを若い時から社会変革しなければならないのではないかと感じております。日本の社会では若い年代から社会生活は仕事だけでなく、その周辺領域でも全く夫婦別々に暮らしているのです。例えば夫の職場の同僚方、ましてやその奥さん方など家庭の主婦と称する人々は知らないし、又余り関心を示さないというのが現状ではないでしょうか。
外国では仕事上は別としても、よく皆でpairでpartyで集まり交流し、そしてpartyでは仕事上の上下は無関係に、例えば小生のアメリカの経験では大学の学長も運転手も気楽に会話していたことが忘れられません。この様なpartyに出かけるには子供をベビーシッターに気楽に預けられる仕組みが必要ですが、夫妻ばかりでなく恋人連れもいて時宜に相手が異なっていともあり、楽しい思い出がかなりあります。この様なpair文化蛾しっかり根付きながら、夫婦で成人期を過ごしつつ、お互いに共通の社会性を持つことが出来る訳です。その上、女性も男性も、両方の話題に関心を持ち、自然と情報を共有することは非常に意義があることと言えます。
そうすることが夫の仕事上のpartyだけでなく、外のgroupでの集まりにもそれが常識化している訳でpair文化の重要性は強調し過ぎることはありません。
ただ、pairで仲が悪いとpair出席もないので、離婚率も高くなり、日本の様にあまり仲が良くなく、家庭内離婚状態でも、結婚が続いて熟年離婚でやっと分かれるなどと言う隠れたるエピソードもありますが、やはりこうしなければ“男は沢山!”などという“日本風中年女性の常識的な発言(?)は無くならないのではないかと信じております。
ただこれも言うは易く行うは難しなのです。なかなか、そのようなpartyすら持つことが、現在の日本の実情では実現困難と言って良いと言えます。
ではどうすればよいのでしょう? それは、身近な方達をお互いに家に家族と一緒に招待することが、まずコミュニケーション形成の第一歩と言えますし、手っ取り早いので試みてはと思っております。大抵は、こんな家に人を呼ぶのはとか、準備が大変だとかの反論がかなり出ると思いますが、外国では、全く飾らずに訪問し合うし、料理もそれこそ何でもいいのではないでしょうか。訪ね合う、楽しい会話を通しての交流を家族同士で持つ、子供がいてもそれはそれで面白く関係が深まるなど、気取らない体裁なしの関係を、例えば職場の方達から始めるべきではないでしょうか? pairでの交流こそが問題解決の1つの道ではないでしょうか?
これは、内向きの家庭の女性の大きな意識転換、社会性意識創りの大きな契機ともなり、それが職場のpair partyの開催の契機となるのではないかと思っております。近所の女性同士集まりとは質の違った集まりであり、外向き・内向きの家庭内での夫婦バランス調整の秘訣であり、それが生活の広がり形成の鍵ともなると言えましょう。勇気を持って試みてください。それさえも出来ないのなら、夫婦一緒での本当の社会性のある交流などは不可能ではないかと信じております。
しかし、この意見を取材に来た女性記者に話すと、“大変重要で意義は認めますが、現実に実行するのは中々大変ですね。どうしたらいいのでしょうね?”と返事をされるのが普通なので、困惑しております。解決の道なしなのでしょうか? 読者の方が是非考えて見てください。
6)その中高年代男女の生活上の社会性と日常性との調和を如何に、若い年代から生活設計を考えて人生を過ごしていかなければならないかという改革すべき日本生活文化の問題にもつながることを忘れないで下さい。
また、この様に、更年期は夫婦間の心理的交流問題が大事な問題点であるのですが、当然ですが、さらにその年代の抱える医学的問題にしっかり対応しなければなりません。しかもそれだけでなく、その後に30年以上も続く熟年期や高齢期につながる医学的ケアの問題ともなっていることもしっかり忘れないで欲しいものです。更年期が長寿化時代になって、今迄とはかなり人生にとって重要な年代になって来ているという事を、その年代の男女方は是非認識を改めて戴きたいと願っております。
7)結論として、少なくとも21世紀はQOL文化の時代であり、若い世代では余り社会性問題や健康問題その他、突進していて振り返りながら日々を過ごすのは無理としても、21世紀の我々にとって、人生折り返し時期である更年期問題はマラソン折り返し点でのケアと同様に考えていくべきであることを強調しておきます。そして医学と社会学とがしっかりと結びついた体系つくりが求められていると言っても過言ではないと言うことになります。
筆者の紹介
熊本 悦明(くまもと よしあき)
日本Men’s Health 医学会理事長
日本臨床男性医学研究所所長
NPO法人アンチエイジングネットワーク副理事長
著書
「男性医学の父」が教える 最強の体調管理――テストステロンがすべてを解決する!
さあ立ちあがれ男たちよ! 老後を捨てて、未来を生きる
熟年期障害 男が更年期の後に襲われる問題 (祥伝社新書)
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