“口のアンチエイジング”を歯科医師の権威に伺う~後編
“口のアンチエイジング”を歯科医師の権威に伺う~後編~
―― 口のエイジング ――
Q:口に老化は如実に
表れるのですか?
斎藤先生:眼と口というのは、一番老化を体感する臓器だと言われている。誰でも老眼になるし、だいたい年齢の『齢』って『歯』と偏を書いて『令』って旁を書きます。昔から口っていうのはとても大事な、年齢を感じるところ。歯が抜けたり、歯周病になったり、口臭がしたり、口が渇いたりすると、若い時にはそんなことなかったのにと気づいて「ああ年をとったな」って感じることになるじゃないですか。
Q:最近、私の周りのアラフィーで話題になっているのですが、年をとると鼻の下の窪み(人中)が無くなるというのは本当ですか?
斎藤先生先生:そうそう。老け顔って、法令線を深くして縦の線が入る。筋肉がピンとはっていると、ここの溝は維持できる。筋力が低下すると溝はなくなってしまう。
Q:この溝もちゃんと噛んでいれば残せるのですか?
口周りの加齢感を抑えることができるのでしょうか?
斎藤先生:僕の本(不老の科学)でトレーニング方法を紹介しています。トレーニングすれば維持も改善もできます。黙って引き籠ってテレビを見て、ブスッとした顔して、文句ばかり言っていると、筋力が萎えて誰でも老化する。だから、元気なおばちゃん達って意味のない会話でダラダラ話しているじゃない。めちゃくちゃ元気でいい。それは口周りの筋肉を動かし、頭も使っていてすごくいい。どんどん人とコミュニケーションをとることはとっても大事。おばちゃん達も「元気だから話せる」のか「話したから元気になる」のかはわからないけど、双方向的な効果はあります。
―― 口のアンチエイジング ――
Q:当法人理事長の塩谷先生も「見た目のコンプレックスは身体のエイジングにも影響を及ぼす」と話されるのですが、そういう意味での口周りの若返りもメンタルに影響するのでしょうか?
斎藤先生:ご老人の施設でお化粧してもらい、すごく精神的に前向きになれたという高齢者の方がいらっしゃるのと同じ。見た目のアンチエイジングというのは馬鹿にならない。
Q:口にこんな症状がでたら気をつけた方がいいというアドバイスはありますか?
斎藤先生:乾燥に伴った症状があった時は、口の老化が始まったサイン。当大学病院のアンチエイジング外来では全身と口の検査をして、その相関を診ています。筋年齢が乏しい方は、噛む力も弱い。ホルモンの量が減少している方は、唾液の分泌量も乏しい。過去外来患者300名程のデータからそう言えると思います。
Q:ということは体の筋肉年齢を高めていくことで、噛む力も蘇ってくるのですか?
斎藤先生:噛めないと力も入らない。バッターやピッチャーとかは、マウスピースをしているでしょ。がっちり噛むため。口を開いて思いっきり力を入れる人はいない。
Q:確かに噛めないと力は入らないですね。
斎藤先生:だから噛めなければ筋力もつかない。結果としてみれば、筋力のない人はよく噛めていない。
Q:そうするとよく噛めるようになると力が入ってくるようになる?
斎藤先生:そう。その逆も言えるしね。
Q:歯周病も怖いのでしょうか?
斎藤先生:歯周病の最近のトピックスは、歯周病からでる様々な因子が、例えば糖尿病や高血圧といった全身の生活習慣病を促進しているのではないかと言われている。歯周病を治したら、血管の硬化度が改善されたとか、そのような血管の炎症を抑えるという論文が海外の医学雑誌に掲載されています。
―― 口の重要性 ――
Q:最後にアンチエイジングネットワークの会員にメッセージをいただけますか?
斎藤先生:<歯科というと虫歯とか歯周病だと思ってらっしゃる方が、会員の中にも多いと思うのです。しかし、歯科医師は「口から全身を診る医者」なんだという事を知っていただきたい。口腔から全身のアンチエイジングっていうのを提言しているのです。また、人間は年を取るといろんな欲がなくなっていきます。名誉欲や金銭欲も。でも最後まで維持したい機能は何かといったらやっぱり「食欲」を満たす口の機能だと思う。味わったり、生命維持のための食事だったり、いろんなものを楽しんでご飯を食べるということが大事。そういう機能を衰えさせたら「何のために生きているの?」ってことになる。エサを食べているわけじゃない。旬のものを味わって、それを体に入れて、それで我々健康で生きていく。健康に生きながらえる医療とは文明だけれども、やはり文化としての食を堪能するっていうのは人間のQOLをあげるには絶対大事なこと。毎日サプリメントと水だけ飲んでそれで生きながらえるのは、あまりにも人間として悲しすぎる。それは、死なない程度に生きているのであれば、それはアンチエイジングの本来求めているゴールじゃない。五感を維持して、それで全てを味わうという機能を十分に維持しながら年を重ねていくっていうことの大切さを伝えたい。そのために、口の機能をどうやって維持するのか。だから歯や歯周病だけでなく、唾液のことや味覚のこともいろいろ考えていかなければならない。噛んで飲み込む機能だって考えなければならない。アンチエイジングというと、見た目、運動、食事というけれども、やはり基本はちゃんと「噛める」「飲み込める」「味わえる」という口の機能。今はみなさん失われてないから気がつかないかもしれません。だいたいこういうのは失ってから、後悔する。だから流動食を食べて、点滴をつけてそれでも生きたいかどうか。誰にも頼ることなく、自分の人生を自分の力で生きて、楽しんで、人生を享受したいなら、「口」の役割が結構大きいですと伝えたいです。
Q:ありがとうございました。
―― 前編へ戻る⇒●ドライマウスとは?●その予防について
斎藤一郎先生 ●略歴 1954年東京生まれ。 2002年より鶴見大学歯学部教授。 2008年から附属病院長。 日本のいくつかの歯学部、医学部、そして米国(スクリプス研究所)で口腔乾燥症を呈するシェ―グレン症候群の研究に長年従事し、多数の論文、著書がある。 現在、免疫学、分子生物学の基礎研究と共にドライマウス研究会を主宰。歯科基礎医学会ライオン学術賞(2002年)、日本病理学会学術研究賞(2003年)等を受賞。日本抗加齢学会理事、アンチエイジング医学編集員。 ●鶴見大学歯学部附属病院HP |
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