モイストヒーリングとは…
当法人の理事長である塩谷信幸先生がもう一つ務めるNPO法人創傷治癒センター。
●創傷治癒センターとは●
創傷治癒に関わる治療法・治療に関わる医薬品及び治療用具、材料に関連する情報を一般社会に向けて提供し、多くの人へ創傷治癒の普及を図り、公益の増進に寄与することを目的に活動しているNPO法人です。
■キズケアについてのお話■
みなさん、キズのケア「モイストヒーリング」をご存知だろうか。今回は塩谷先生のレクチャーを基に、キズのケア「モイストヒーリング」についてご紹介したい。
みなさんはケガをしたとき、キズのケアをどのように行っているだろうか。キズを乾かして、かさぶたをつくる、という方法をとっている方も多いのではないだろうか。
恥ずかしい話、記者も最近までそれが正しいと思っていた。
しかし、「それでは治りも遅いしきれいに治らない。かさぶたを作って治すのは間違いだ」と塩谷先生。
「キズがどのように治るのか」、「モイストヒーリングの効果」、「正しいキズケア」についてみていこう。
■キズはどのように治るのか■
皮膚は、表皮・真皮という2層の組織から形成されている。その下に皮下の脂肪組織がある。皮膚は、体を細菌や紫外線から守り、体液の漏出を防ぎ、また体温を調整する重要な器官なのだ。
軽いキズが気がつくと治っていたという経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。皮膚には自然治癒力が備わっている。この自然治癒能力を妨げないことが大切になるそうだ。
やけどをしたとき、時間が経つと水ぶくれになる。この水泡を破らなければ早くきれいに治るそうだ。しかし、多くの場合は、この水泡が破れてしまう。だが、この水泡液が重要な役割を果たす。水泡を温存しておいた方がきれいに早く治るのだ。これは、イギリスの動物学者ウィンター博士がはじめに実証。
また、切ったキズにバンソウコウを貼っておくと、1週間もすれば治るでしょう。それは、この期間に色々な細胞が大活躍してキズが治るという仕組みである。
皮膚が欠損した場合、ある程度の大きさならば放っておけば段々ふさがる。ふさがる場合、2つのメカニズムが働いている。1つは、周りから表皮細胞が伸びる。もう1つは、実際にキズが収縮する。線維芽細胞の働きでキズが収縮するのだ。
皮膚に欠損がある時は、表皮化による皮膚の再生とキズ自身が収縮するという2つのメカニズムが働いている。
●線維芽細胞とは●
結合組織で、我々の肌のハリのもとになるコーラゲン・エラスチン・ヒアルロン酸といった真皮の成分を作り出す細胞のこと。
~キズが治るメカニズム:3つのステージ~
①炎症期…ケガをしたとき
この炎症は、感染という意味ではなく、治るために必要なプロセスのことである。
・皮膚の細胞が破壊され、血管も破れるため出血が起こる。
・血小板が凝固因子を活性化し血液を凝固し、止血する。
・同時に血小板から化学因子が放出され、単核球や好中球を呼び寄せる。
・単核球は、破壊された組織を貪食し、マクロファージとなる。
②増殖期
・マクロファージが線維芽細胞をキズ口に呼び寄せる。
・その線維芽細胞が分裂・増殖してコラーゲンを作る。
・同時に毛細血管が新生して、酸素と栄養を線維芽細胞に与える。
・毛細血管と線維芽細胞とコラーゲンの3者で作る組織を肉芽組織という。
・1~2週間で欠損部はコラーゲンによってつながり、真皮に近い丈夫な瘢痕組織(コラーゲンのかたまり、ボンドの役割をする)を生成する。
③安定期
・再生した表皮の下で、瘢痕組織のコラーゲンは生成と分解を重ねて、安定した組織となり、皮膚としての抗張力を取り戻す。
これらの過程を震災に例えると、炎症期が消火活動である。それは、血小板の働きである。血小板がマクロファージという瓦礫処理班を呼び寄せる。単核球が瓦礫を貪食して、マクロファージとなり、線維芽細胞という大工を呼び寄せる。その大工が木材に相当するコラーゲンで建設を始める。それぞれの過程が次の過程を呼び寄せる連鎖反応である。
■モイストヒーリングの効果■
モイストヒーリングとは、湿潤治療のこと。
モイストヒーリングには、4つの効果がある。
●早く治る ●きれいに治る ●感染が抑えられる ●痛みが少ない
それでは、どのくらいきれいに治るのか…。
これは、ハイドロコロイドドレッシングを使用した治癒経過。
ハイドロコロイドドレッシングとは、医療現場で多く使用されるモイストヒーリングのために開発された創傷被覆材のひとつである。
初診時…生理食塩水で洗浄し、ハイドロコロイドドレッシングを貼付。
3日目… 白く膨らんでいるのは、浸出液がハイドロコロイドドレッシングのコロイド粒子と作用してゲル状化したため。
10日目…痂皮を形成せず、表皮が再生。
ハイドロコロイドドレッシングは5日くらい交換の必要はない。入浴など日常生活への影響もなく、痛みが少なく、早くきれいに治るのだ。
※浸出液により、湿潤環境が保たれ、表皮形成が妨げられることなくスムーズに行われるため、キズ跡が残りにくくきれいに治る。
■正しいキズのケア■
①水道水で洗浄
キズの処置は、できるだけ消毒剤に頼らないようにする。普通のキズならば、無理をして消毒剤を使わずに水道水で洗い流すことをお勧めする。水の圧力により、ゴミと一緒にばい菌も取れるからだ。
最近の消毒剤は、組織障害は少ないが、殺菌力の強いものは生体の細胞にも障害を与える可能性がある。
②キズ口を止血
とりあえずの止血は、ガーゼで抑える。
ガーゼがない場合には、清潔なタオルやティッシュを使用すると良い。
③キズの保護
ガーゼをキズに貼りっぱなしにするとガーゼをはがすたびに、出血も起こし、痛みも伴う。更に、せっかく生成された表皮細胞もはがしてしまう。
その代わりに浸出液を乾かさないように、できればキズパワーパッドのようなハイドロコロイドを使用した救急バンソウコウなどを貼ってキズを保護すると良い。
わかっていそうで実は正しい処置の仕方を知らなかったという人も多いのではないだろうか。キズの治癒には、乾燥させずに浸出液を保ち、適度な湿潤環境を維持することが大切だ。
家庭でキズのケアをするときに最適なのが、ジョンソンエンドジョンソン株式会社から出ているキズパワーパッド。これは、ハイドロコロイドを組み込んだ救急バンソウコウである。
キズパワーパッドは、キズを密閉して水やばい菌の進入を防ぐ一方、浸出液を柔らかいゲル状にして吸収・保持し、キズの治りに最適な環境をつくることで自然治癒力を高め、キズを早く治す。
みなさんも正しいキズケアで「早くきれいに治す」方法を身につけよう。
(AAN WEB編集部 渡辺仁美)
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