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日本再生医療学会エデュケーショナルセミナー

2月1日火曜日、六本木ヒルズ内アカデミーヒルズにて、日本再生医療学会によるエデュケーショナルセミナーが開催された。
日本再生医療学会は2001年に「再生医療の進歩、発展及び育成を図ると共に人類の健康増進と福祉の向上に寄与する」という目的のもと立ち上げられた学会だ。このエデュケーショナルセミナーは、マスコミを対象に再生医療の現状を知ってもらうために開催されており、第5回目となる今回は、坪田一男教授(慶應義塾大学医学部眼科学教室教授)の司会進行により幕を開けた。

「乳歯幹細胞の衝撃」
上田実氏(名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座教授・日本再生医療学会理事)

再生医療の第一人者である上田教授は、2007年名古屋大学に「乳歯幹細胞研究バンク」を立ち上げた。この研究バンクは、乳歯を預かって乳歯から幹細胞を取り出し再生医療に応用させる研究を目的としている。
乳歯幹細胞は骨髄やさい帯血の幹細胞に比べ、細胞の増殖能が高いことや、採取が簡単であること、捨てられる乳歯を利用するので受精卵から作られる胚性幹細胞(ES細胞)に比べて倫理的な問題も少ないなどの長所があるため、近年大きな注目を浴びている。
上田教授の研究チームでは、子犬の歯から取り出した幹細胞で親犬のあごの骨を再生できることをすでに確認しており、将来ヒトへの臨床応用が期待されている。

今回のエデュケーショナルセミナーで上田教授は、「幹細胞由来成長因子療法」について発表した。創傷が治癒する過程において、内在する幹細胞は創傷部位に集積するメカニズムをもっている。さらに培養した幹細胞の上清(遠心力などによって沈殿した上部の透明な液体部分)には細胞増殖・遊走、骨形成にかかわるタンパク質が含まれる性質を持っている。これらの性質を利用し有効性を実証するため、乳歯幹細胞を濃縮したパウダーを生理食塩水で溶き、脳梗塞のラットに注入したところ、脳梗塞範囲の著しい低下がみられたそうだ。
この療法はiPS細胞(体細胞内に数種類の遺伝子を導入することで、多くの細胞へ分化させる機能を持つ)と比較して安全性が高い、操作性に優れる、低コスト等の利点があり、さらに研究と実用化が進めば再生医療のさらなる発展が期待できそうだ。

「第10回日本再生医療学会総会トピックス」
岡野光夫氏(日本再生医療学会理事長・東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授)

岡野教授からまず初めに、2月1日付で日本再生医療学会から発表された「再生医療の安全性に関する声明」についての説明があった。
再生医療の実用化に向けて行政的な取り組みがされつつある一方で、「医師の裁量権」を根拠に、安全性の確保等を目的とした正規の手続きを経ない医療行為が行われており、不適切な幹細胞治療の結果として種々の医療事故などが発生しているという実態を注意喚起する内容の声明だ。(声明全文はこちら)

そして3月1日~2日に開催される「第10回日本再生医療学会総会」のダイジェストをお話しいただいた。(第10回日本再生医療学会総会の詳細はこちら)

2名の講義終了後、再生医療の問題点について活発な意見交換がおこなわれた。とくに議論の中心となったのは、医師法と薬事法の温度差についてだ。
今回発表された声明にもあるように、医師法では医師による医療行為はあくまで自己責任であると解釈されている一方、薬事法では、治験を通して実用化に結び付くまでにはかなり高いハードルを要する。簡単にいえば、同じ医療行為であっても、研究(薬事法)は法規制によって進まない現状に対し、治療(医師法)であれば許可されてしまう、ということである。この矛盾点について、バランスのとれた法規制が必要である、という意見のほか、行政のバックアップが得られるようマスメディアは正確な情報を発信していくべき、との声も聞かれた。

医療技術の発展において期待が寄せられる中、様々な問題を抱える再生医療。今後の動向がますます注目される。

(AAN WEB編集部・小田真弓)

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