脳内の金属:アルツハイマー病などの変性疾患に関与
「脳内の金属:アルツハイマー病などの変性疾患に関与」
――ハセ博士のヘルシー情報最前線(336)
ご存知のように、貧血は体内の鉄分が不足することにより起こりますので、鉄分が多く含まれるサプリメントなどを摂っておられる方も多いと思います。
ところが、アルツハイマー病やパーキンソン病といった変性疾患の患者さんの脳には、健常者を大きく上回る金属の蓄積が認められることから、少なくとも脳の機能に関しては過剰な鉄分の蓄積は有害であることが明らかになりました。
これはメルボルン大学病理学アシュレー・ブッシュ教授らが、医学誌ネイチャー・メディシンに報告したものです。
(論文タイトル:Tau deficiency induces parkinsonism with dementia by impairing APP-mediated iron export 著者: Peng Lei, Ashley I Bush他、 Nature Medicine online 29 January 2012)
研究では、脳のニューロン(神経細胞)構造の安定化に役立つタウ・タンパク質(このタウ・タンパク質は、アルツハイマー病やパーキンソン病と関連があることが既に分かっています。)が生成できないように飼育されたラットを用いて、脳の鉄分量を調べました。
その結果、このようなラットは歳をとるに従って短期の記憶障害が発生し、アルツハイマー病やパーキンソン病に似た症状を示すことがわかりました。
そしてその時にラットの脳内鉄分量測定したところ、鉄分が蓄積し、過剰に存在していることが明らかになりました。
また、このラットに過剰な鉄分を取り除く薬を与えると、これらの症状は改善することもわかりました。
以上の結果から、脳内鉄分が過剰に存在するとアルツハイマー病やパーキンソン病などと同様の神経の変性が起こること、また過剰の鉄分の除去にはタウ・タンパク質が必要である、と結論されています。
今までも、鉄分の削減することがこれら脳の変性疾患の治療に有効であることは既に他の研究で示されていたのですが、今回のブッシュ教授らの研究はそれを裏付けるものです。
さて、鉄分は酸素と結合することにより身体のエネルギーを生産するのに必要で、欠乏すると貧血などの症状が起こります。
ところが逆に過剰に存在すると、細胞にダメージを与える活性分子フリーラジカル(遊離基)も発生させる原因となり、脳の変性を起こしやすくなると考えられています。
また鉄以外の金属も、脳の機能に重要なことがわかっています。
このように、脳内の金属の役割を理解することでさまざまな脳への影響が明らかになり、また脳の変性疾患の治療に新たな道が開けると期待されます。
以下に、金属の影響を示しました。
(1)鉄
正常な機能: 酸素の運搬に関わり、細胞のエネルギー生成。
脳内での影響: 鉄分過多はアルツハイマー病とパーキンソン病に関連。タンパク質と鉄分の供給や吸収に関係する遺伝子の変異は、ルー・ゲーリック病と多発性硬化症に関連する。
(2)銅
正常な機能: 酸素の運搬を助ける。しばしば鉄とともに作用。
脳内での影響: ウィルソン病は銅の体外排出ができなくなり、言語障害や震え、筋肉のこわばりを生じる。また、銅の調節の乱れはメンケス病を引き起こし、銅のレベルは異常に低くなる。
(3)亜鉛
正常な機能: DNAとRNAの生成を助ける。細胞死の調節。短期の記憶と学習に関与。
脳内での影響: 亜鉛のレベルが低かったり、通常みられない部分に亜鉛が存在したりすると、記憶障害が引き起こされる。
ハセ博士=薬学博士。国立大薬学部や米国の州立大医学部などで研究や教官歴がある。
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