アルツハイマー病マウスの記憶が戻る:利根川博士らの研究
アルツハイマー病のマウスを用いた実験で、記憶を戻すことに成功したというビッグニュースです。
これは、理化学研究所の利根川進・脳科学総合研究センター長らが、英科学誌ネイチャーに発表したものです。
(論文タイトル: Memory retrieval by activating engram cells in mouse models of early Alzheimer’s disease/著者: D Roy,A Arons,T Mitchell, M Pignatelli,T Ryan & S Tonegawa/科学誌名: Nature (2016) doi:10.1038/nature17172, Published online 16 March 2016)
研究では、底に弱い電流が流れる容器の中に、正常なマウスとアルツハイマー病のマウスを入れ、飼育しました。そして、脚部に弱い電流を流すことにより、びりびりする不快な体験として記憶させたそうです。
次に容器から出して飼育したのち、24時間後に再び前の容器に戻しました。
すると、電流の流れない状態であっても、健康なマウスは嫌な記憶を思い出して身をすくませたのに対し、アルツハイマー病マウスは特に恐れる様子はなかったそうです。
アルツハイマーマウスは、痴呆症状のために記憶がなくなっているわけですね。
ところが、電流を通して嫌な体験をさせた時に活性化する脳の部分に青色の光を当てて刺激したところ、アルツハイマー病マウスも正常マウスと同様に身をすくませるようになることが分かりました。
このことから、「アルツハイマー病マウスでは、記憶に関わる神経細胞同士での信号伝達が衰えていると考えられ、アルツハイマー病は記憶が消えるのではなく、記憶を思い出す機能が働かなくなる病気であることを示唆する結果である」と結論されています。
私を含むシニアの人はどなたも痴呆症や認知症を恐れていますが、一刻も早く治療法が見つかることを祈ってやみません。
ハセ博士=薬学博士。国立大薬学部や米国の州立大医学部などで研究や教官歴がある。
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