肥満度が高いと歯の喪失リスクに。中高年の歯の残存に大きな差
「肥満」と「歯」は、一見無関係のように思えますが、肥満は歯の喪失のリスクとなることが明らかになりました。
「肥満」も「口腔内の悪化」も、アンチエイジングのために改善すべき重要ななポイントであり、生き生きとした毎日を過ごすために、ぜひ生活習慣の改善に取り組んでいきましょう。
以下に研究結果をご紹介します。
国立大学法人 滋賀医科大学 前川聡 名誉教授、森野勝太郎 准教授の研究グループとサンスター株式会社は、共同研究により、定期健康診断結果と医療機関の診療情報(診療報酬明細書=レセプト)をもとに、年代ごとにBMI (Body Mass Index:体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数) と歯の本数の関係を分析するとともに、肥満者 (BMI ≥25) と非肥満者の歯の喪失部位の比較を行いました。
その結果、以下のことを明らかにしました。
●40代以上の年代において、BMIが高いほど歯の本数が少ない
●肥満者では、非肥満者に比べて、大臼歯部 (奥歯) から歯を喪失していく
●肥満に喫煙習慣が加わることで歯の喪失リスクは増大し、肥満が影響する部位と異なる部位の歯の喪失にも影響を及ぼす
●肥満は性別、年齢や喫煙、糖尿病の指標と独立して歯の喪失のリスクとなる
これまでも、肥満が歯の喪失と関係することが知られていましたが、20万人を超えるビッグデータを用いたことにより、BMI階層や部位別の分析を実施することができました。
これらの結果から、肥満者の歯の喪失を防ぐためには、生活習慣の改善による減量や禁煙に加えて、早期に歯科受診を行い、歯周病やう蝕の治療を行う必要があると考えられます。
また、喪失のリスクの高い奥歯を中心に、比較的若い年代から適切なオーラルケアを行うことにより歯周病やう蝕を予防していくことも重要だと考えられます。
研究の背景・目的
口腔と全身の健康状態にはさまざまな関連があることがわかってきています。昨年には、同じく共同研究により、30代から血糖コントロールが悪いほど歯の本数が少ないことを明らかにし、Diabetology International誌にて発表しました。
一方、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態である肥満は糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病、心血管疾患、腎臓病、ガンなどのさまざまな病気の重要なリスク因子であることが知られています。
令和元年の国民健康・栄養調査によると、男性の33.0%、女性の22.3%がBMI ≥25の肥満者に該当すると推計され、日本国民においても肥満は身近な健康問題として認識されています。
最近の研究により、肥満は歯周病の発症や進行のリスクを増大させること、肥満者はう蝕リスクが高いことが示され、また、既にいくつかの研究により、肥満が歯の喪失リスクとなることが報告されています。しかしながら、肥満が残存歯に及ぼす影響を年代別、歯の部位別に検討した大規模な研究はありませんでした。
そこで今回の研究では、診療報酬明細書と定期健康診断結果から構成される大規模データベースを用いて、肥満が歯の残存に及ぼす影響を年代や歯の部位ごとに分析いたしました。また、肥満の歯の喪失に対する影響について、他の主要なリスク因子である喫煙や糖尿病の指標などの関与も考慮して分析を行いました。
対象者属性と方法
複数の健康保険組合の定期健康診断受診者約70万人のうち、1)2015年度に歯科受診歴があり、2)歯の本数とその部位が確認でき、3)健康診断におけるBMIとHbA1cのデータ、喫煙習慣の問診回答を有する、20才から74才までの男女233,517人のデータを解析対象としました。
対象者を日本肥満学会が定める肥満度の分類に従い、BMI値に応じて4段階 [低体重;18.5以下、普通体重;18.5~25未満、肥満(1度);25~30未満、肥満 (2~4度);30以上] に群分けし、10歳階級ごとに歯の本数を比較しました。さらに、BMI 25以上を肥満とし、肥満の有無で2群に分けた歯の部位別の保有者率および喫煙の有無も加えて4群に分けた保有者率を算出いたしました。また、BMIとともに、性別、年齢、喫煙習慣、糖尿病の指標(HbA1c ≥6.5%)を説明変数としたロジスティック回帰分析を行い、歯数が24本未満となるオッズ比を算出いたしました。
研究結果
1.各年代のBMI階層ごとの歯の残存数
40代以上の各年代でBMIが高い群ほど歯の本数が少ないという連続的な関係性が示されました (図1)。
一般的に歯の喪失が起こり始める50代よりも若い段階で、肥満度が高いほど、歯を喪失しやすい傾向がみられています。
2.肥満の有無と歯の部位別の保有者率
非肥満者 (BMI 25未満;上段) と比較して肥満者 (BMI 25以上;下段) では、多くの部位の歯を失っており、30~60代のいずれの年代においても大臼歯 (奥歯) および上顎中切歯の保有者率が有意に低いことが分かりました。
上顎の多くの歯においては、40代で既に両者の保有者率に顕著な違いがありました。肥満による保有者率低下の影響がもっとも大きく観察された歯の部位は、下顎の大臼歯であることが明らかとなりました (図2)。
また、肥満に喫煙の条件が加わると、保有者率が有意に低い歯の部位がさらに増え、肥満のみとは異なる部位の歯の喪失にも影響することが明らかとなりました。
3.歯数24本未満に及ぼすリスク因子
肥満が独立した歯数24本未満となるリスク因子であるかどうかを検討するために、他のリスク因子で調整した4つのモデルによるロジスティック回帰分析を行いました。
モデル1; BMI ≥25.0 モデル2; モデル1 + 性別、年齢
モデル3; モデル2 + 喫煙習慣 モデル4; モデル3 + HbA1c ≥6.5
その結果、BMI ≥25.0のオッズ比は、それぞれ1.47 (95%CI: 1.43-1.52)、1.39 (95%CI: 1.35-1.44)、1.39 (95%CI: 1.34-1.44)、1.35 (95%CI: 1.30-1.40) となり、肥満は喫煙や糖尿病の指標などの他のリスク因子と独立して歯数24本未満を説明する因子であることが明らかとなりました。
<論文タイトルと著者>
タイトル:Real-world evidence of the impact of obesity on residual teeth in the Japanese population: A cross-sectional study
著 者:Mayu Hayashi, Katsutaro Morino, Kayo Harada, Itsuko Miyazawa, Miki Ishikawa, Takako Yasuda, Yoshie Iwakuma, Kazushi Yamamoto, Motonobu Matsumoto,
Hiroshi Maegawa, Atsushi Ishikado
掲 載 誌:PLOS ONE
今後の展望
2022年6月に閣議決定された 「経済財政運営と改革の基本方針2022 (骨太の方針2022)」 において、歯科に関わる方針として、全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積と国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診 (いわゆる国民皆歯科健診) の具体的な検討などのいくつかの方針が明示されました。
歯の喪失を防ぎ、どのような食べ物もしっかり噛んでおいしく食べることは、Quality of Life (QOL) を維持し、全身の健康の増進に役立ちます。今回、さまざまな病気のリスクとして知られている肥満状態が比較的若い年代から歯の喪失に影響している可能性について、実社会における労働世代のビッグデータを用いて示すことができました。肥満者において、早期の歯科受診による歯周病やう蝕の治療、適切な口腔衛生習慣による奥歯のケアは、歯の喪失を防ぐことによって健康の維持に役立つことが期待されます。
■滋賀医科大学糖尿病内分泌・腎臓内科について
滋賀医科大学糖尿病内分泌・腎臓内科は“地域社会に還元できる優れた医師”、“将来の治療に役立つ研究のできる科学者”の育成を目標として、スタッフ一同が協力して活動しています。とくに、糖尿病・肥満症とその合併症について様々な研究を行ってきました。これからも患者さんに役立つ研究を推進していきたいと思います。
■サンスターグループにおける 「口腔と全身」 に関する研究について
サンスターは、「常に人々の健康の増進と生活文化の向上に奉仕する」 の社是のもと、オーラルケア製品、化粧品、健康食品などの事業を行っています。「口腔と全身」 の関係性にいち早く着目し、国内外の大学、医療機関と連携して研究、新製品の開発および啓発活動に取り組んできました。今後もお口の健康を起点としながら全身の健康に寄与する情報・サービス・製品をお届けすることで、人々の健康寿命の延伸に貢献することを目指していきます。
Newsroom:https://www.sunstar.com/jp/newsroom/
製品情報サイト:https://jp.sunstar.com/
情報提供:サンスター
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