「飲む水素水」に関する国民生活センターの調査報告
2016年12月15日、独立行政法人国民生活センターより 「飲む水素水」に関し、下記タイトルの報告がありました。この報告の目的は、飲む水素水関連商品(容器入り、及び、水素生成器)について、消費者から多くの問い合わせが寄せられ、消費者の関心が高いため、国民生活センターにて調査を行い、その結果を消費者に情報提供するというものでした。
本レポートは33ページにわたる長いものですので、要点をまとめてみました。
容器入り 及び 生成器で作る、飲む「水素水」
― 「水素水」には公的な定義はなく、溶存水素水は様々です ー
独立行政法人国民生活センター(参照ページ)
<問い合わせ例>
● 商品に水素濃度が表示されているが、開封時にシュッと音がするので、かなりの水素が抜けていると思う. 事業者に問い合わせたところ、開封時の数値は測定してないので不明と言われた。
● 水素が含まれていないものもあるという情報があるが、本当か?
● 生成器購入のほうがお得と思ったが、生成器で水素水が本当に作れるのか?
● ボトル型水素水生成器を購入したが、泡の出方が少ない。本当に水素水ができているのか疑問
今回実施された調査対象には、よく売れていると判断された下記の19商品が含まれました。
1)容器入り水素水 10商品
①アルミパウチ 6商品
②アルミボトル(缶) 2商品
③ペットボトル 2商品
2)スティック型 2商品
3)携帯型 3商品
4)据え置き型 2商品
5)蛇口直結型 2商品
なお、「水素水」に<公式な定義がない>のは、「野菜ジュース」あるいは「炭酸水」などに公式な定義がないのと同様で、水素水に限りません。水素水の現在の扱いは「清涼飲料水」です。
本報告で問題とされた点は下記の3点に大別されます:
①溶存水素濃度の表示と実際の測定値との相違
➡ 容器等に記載されている水素濃度と、実際に測定した水素濃度に大きな差のある商品があり、なかには実測で水素濃度ゼロの商品もありました。
➡ 水素濃度の表示が『充填時』、『出荷時』、『工場出荷時から賞味期限までの水素濃度(未開封)』など、さまざまありました。商品の中には『充填時 2.0~2.7ppm』と表示されていたアルミパウチが、本調査の少し前に(2016年9月出荷分より)、「1.1~1.6ppm(出荷時)」に変更されたものもありました。
AANのウェブ上に記載されている『水素水および水素風呂の選び方』の中ですでに触れられていますが、『充填時』の水素濃度は、消費者にとって何の意味もありません。加圧下で水素ガスを充填している商品の場合は、いずれの商品も溶存限界をはるかに超える水素濃度で充填しますが、充填後の常温常圧では溶存限界の1.6ppmまで速やかに低下し、その後も徐々に水素は抜けていきますので、消費者が飲む時点で『1.6ppm』はありえないのです(常温常圧でない場合はこの限りではありません)。
②水素以外に生成される物質の問題(水素生成器の場合)
➡ 水素以外にどのような成分が含まれているか?
水素生成器の場合は、商品により、「酸素」、「遊離塩素」、「水酸化物イオン」などが水素以外に生成されるとの回答がありました。問題は、これらの物質が適切に記載されているか、あるいは適切に処理されているかどうかですが、本レポートでは現状調査にとどまっています。
表7.電気分解による生成器で、水素以外に生成される物質(事業者からの回答)
物質名 |
回答数(自由回答) |
酸素 | 3 |
遊離塩素 | 2 |
水酸化物イオン | 2 |
プラチナコロイド | 1 |
オゾン* (事業者から回答はないが、取扱説明書に記載あり) |
2 |
なし | 1 |
③ 効果・効能に関する表示、広告の問題
本レポートでは、『水素水は現時点で、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品として認可されたものはないので、健康保持増進効果等と受け取れる記載が商品そのもの、もしくは販売会社のウェブ等にて記載されている場合は、医薬品医療機器等法、健康増進法、もしくは景品表示法に抵触する恐れがある』として、医療・美容効果をうたっている事業者へ表示の改善を要望しています。
問題点としては上記3点が指摘されている訳ですが、消費者が知りたい商品に関する情報として、具体的な調査結果は下記のとおりです。
容器入り水素水10商品
(アルミパウチ6、アルミ缶2、ペットボトル2)のうち、2つの測定方法(電極法、ガスクロマトグラフ法)のいずれにおいても水素濃度0.8ppm以上*だったのは、
『水素たっぷりのおいしい水』
『高濃度ナノ水素水スパシア』
『ナノ水素水キヨラビ』
の3商品でした。
ちなみに、この3商品は、2013年2月28日号週刊文春の<水素水論争に最終結論! 誌上実験でわかった「本物」と「偽物」>に掲載された、調査対象水素水9つの中で水素濃度の高いことが実証された3商品と全く同じです!
*「0.8ppm以上」とは、日本分子状水素医学生物学会のHPに示されている水素濃度)。
今回もペットボトル2商品(『逃げない水素水36』、『日田天領水』)は、水素濃度ゼロと判定されました。(なお、『日田天領水』は、商品のパッケージに「ミネラルウォーター」、「天然活性水素水」との表示がある銘柄ですが、原材料に「水素」の表示はありません)
1)スティック型、携帯型、据置型、蛇口直結型(合計9商品)
これらの商品は多少の差はあるものの、今回調査対象となった商品は、全般的に水素濃度がかなり低いことが示されましたが、 唯一、据置型の『高濃度水素水生成器 ルルド』 は、30分間の運転時間、水量1.8Lで、生成直後はいずれの測定方法でも1.0ppm以上の水素濃度が確認されました。
特にスティック型や、管理医療機器(連続式電解水生成器)として、認証されている蛇口直結型の水素生成器(日本トリムの『連続生成型電解水素水整水器 TRIM ION HYPER』、および、パナソニックの『還元水素水生成器 TK-HS91』)は、水素濃度0.2ppm前後(商品によってはそれ以下)しかないことが示されました。
なお、これら2商品の『管理医療機器』は、水道に直結して、流水過程において、カルシウムイオンを含む飲用適の水を電気分解して、『飲用のアルカリ性電解水』 と 『飲用外(排水用)の酸性電解水』を生成する機器、と定義され、飲用のアルカリ電解水が胃腸症状改善効果を期待するものとして認証されています。
以上が本レポートの要約ですが、下記アドレスに全文が掲載されていますので、詳細を知りたい方はこちらをご覧ください。
以上、以前から指摘されているように、水素商品市場はいまだに玉石混交です。
ご参考までに、加圧下で水素ガスだけを充填する水素水パウチや缶の商品とは異なり、水を電気分解して水素水をつくる『水素生成器』の場合は、水素以外の成分が発生します。
飲み水が電極に接触しているものか(この場合、たとえ微量でも電極成分が飲料水中に溶け出す可能性あり)、非接触電気分解型か、あるいは、水素以外の成分をどう処理しているかなど、事業者の製造法によって異なります。
いずれにしても、消費者には非常に分かりにくいので、心配な点があれば、たとえば、『水素以外にどんな物質が出ていますか?』というように、直接販売者に問い合わせればよいと思います。その対応の仕方でかなりの判断ができるのではないでしょうか。
水素の可能性を信じて、水素濃度を少しでも高めるよう製造工程を工夫したり、水素が抜けにくくなるような工夫を容器に凝らしたりして、努力している企業がある一方で、水素ブームに便乗して水素がほとんど含まれていない商品、あるいは、水素濃度が低いにもかかわらず、いかにも高いかのような表現で販売している企業もあり、これらが混在している状況です。
製造元が大手であるかどうか、あるいはメディアで目立つ商品(TV広告や著名人を使った宣伝)であるかどうかなどは、商品の信頼性そのものとは全く関係のないことが今回の調査でも明白となりました。
今回の調査により、商品を購入する際にどんなことに気を付ければよいか、消費者にとってある程度の判断材料にはなったと考えられます。ただし、今回調査対象に入っていない商品も多く存在します。信用できる商品か否かを判断するポイントの一つとして、まずは「自社データ」なのか、「第三者機関によるデータ」なのか、チェックしてみることもよいと思います。
ポリフェノールがからだによい、アスタキサンチンがよい、オメガ3を含むオイルがよい、などといわれていますが、これらと同様に、水素の作用などをただちに体感することは難しいと思います。
ですが、水素が活性酸素(選択的にヒドロキシラジカル)を消去するという実証された根拠があることから、生活習慣病を含む様々な疾患(や老化)の予防および治療効果を信じて、日夜研究に励んでいる医師や研究者が少なからずいることも事実です。水素に関する学術論文はすでに約400報発表されています(英語論文)。
2016年11月30日に発表された慶応義塾大学を中心として、国内10施設以上で実施予定の『心停止への水素ガス吸入臨床試験(二重盲検試験)』は、まさに日本発の、世界的に注目される画期的なものですので、これについては別途書きたいと思います。
メディカル パースペクティブス 寺尾和子(薬剤師)
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